《なぞ》は解けなかった。ともあれ、この出来事があってからの四、五日というものは、家のものにはそれが四十日にも五十日にも当たった。その間、お粂が生死の境をさまよっていて、飲食するものも喉《のど》に下りかねるからであった。


 にわかに半蔵も年取った。一晩の心配は彼を十年も老《ふ》けさした。父としての彼がいろいろな人の見舞いを受けるたびに答えうることは、このとおり自分はまだ取り乱していると言うのほかはなかったのである。その彼が言うことには、この際、自分はまだ何もよく考えられない。しかし、治療のかいあって、追い追いと娘も快い方に向かって来ているから、どうやら一命を取りとめそうに見える。娘のことから皆にこんな心配をかけて済まなかった。これを機会に、自分としても過去を清算し、もっと新しい生涯《しょうがい》にはいりたいと思い立つようになった。そんなふうに彼は見舞いの人々に言って見せた。時には彼は村の子供たちを教えることから帰って来て、袴《はかま》も着けたままお粂の様子を見に行くことがある。母屋《もや》の奥座敷には屏風《びょうぶ》をかこい、土蔵の方から移された娘のからだがそこに安静にさせてある。娘
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