にも驚き、そこに疲弊した宿村の救いを見いだそうとしたことは無理だったろうか。彼らが復古のできると思った証拠には、最初の嘆願書にも御誓文の中の言葉を引いて、厚い慈悲を請う意味のことを書き出したのでもわかる。やがて、筑摩県の支庁も木曾福島の方に設けられ、権中属《ごんちゅうぞく》の本山盛徳が主任の官吏として木曾の村々へ派出される日を迎えて見ると、この人はまた以前の土屋総蔵なぞとは打って変わった態度をとった。もしも人民の請いをいれ、木曾山を解き放ち、制度を享保以前の古に復し、これまで明山《あきやま》ととなえて来た分は諸木何品に限らず百姓どもの必要に応じて伐《き》り採ることを許したなら、せっかく尾州藩で保護して来た鬱蒼《うっそう》とした森林はたちまち禿山《はげやま》に変わるであろうとの先入主となった疑念にでも囚《とら》われたものか、本山盛徳は御停止木の解禁なぞはもってのほかであるとなし、木曾谷諸村の山地はもとより、五種の禁止木のあるところは官木のあるところだとの理由の下に、それらの土地をもあわせすべて官有地と心得よとの旨《むね》を口達した。この福島支庁の主任が言うようにすれば、五木という五木の生
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