》めていると告げに来る。あるものは大坂奉行所から新設道路工事を請け負った一役人がその土木工事金を隠匿していると告げに来る。ある事、ない事が掘り出された。在来幕府時代からの諸役人に対して土地のものが抱《いだ》いていた快くない感情までが一緒になって、一時にそこへ発して来た。だれが思いついて、だれがそれに調子を合わせるとも言えないような「えいじゃないか」のめずらしい声が、町々にはわくように起こって来た。


 はやし立てる「ええじゃないか」の騒ぎは正月十四日になってもまだやまない。その群集の声は神戸の海浜にある新しい運上所(税関)にまで響き伝わっていた。
 そこはいわゆる「びいどろの家」である。ガラス板でもって張った窓のある家もまだ神戸|界隈《かいわい》に見られないころに、開港の記念としてできた最初の和洋折衷の建築である。大坂の居館を去って兵庫の方に退いていた各国公使らは、それぞれ通訳に巧みな書記官をしたがえ、いずれも礼服着用で、その二階の広間に集まりつつあった。英国特派全権公使兼総領事パアクス、仏国全権公使ロセス、伊国特派全権公使トゥール、普国代理公使ブランド、オランダ公務代理総領事ブロッ
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