になったら、あなたの着物でも出してあげましょうか。」
こんな女らしい心づかいも半蔵をよろこばせた。
香蔵は黒く日に焼けて来て、顔の色までめっきり丈夫そうに見える人だ。夕方から、一風呂あびたあとのさっぱりした心持ちで、お民にすすめられた着物の袖《そで》に手を通し、拝借という顔つきで半蔵の部屋に来てくつろいだ。
「相良惣三もえらいことになりましたよ。」
と香蔵の方から言い出す。半蔵はそれを受けて、
「その話は景蔵さんからも聞きました。」
「われわれ一同で命乞いはして見たが、だめでしたね。あの伏見鳥羽《ふしみとば》の戦争が起こる前にさ、相良惣三の仲間が江戸の方であばれて来たことは、半蔵さんもそうくわしくは知りますまい。今度わたしは総督の執事なぞと一緒になって見て、はじめていろいろなことがわかりました。あの仲間には三つの内規があったと言います。幕府を佐《たす》けるもの。浪士を妨害するもの。唐物《とうぶつ》(洋品)の商法《あきない》をするもの。この三つの者は勤王攘夷の敵と認めて誅戮《ちゅうりく》を加える。ただし、私欲でもって人民の財産を強奪することは許さない。そういう内規があって、浪士数名
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