渡らないと言うんです。あの名主はそれで松代藩の方へ送られたというのが、まあ実際のところでしょう。しかしわたしの聞いたところでは、あの名主と不和なものがあって中傷したことらしい――飛んだ疑いをかけられたものですよ。」
「そういうことが起こって来るわい。」と吉左衛門は考えて、「そんなごたごたの中で、米や金が公平に割り渡せるもんじゃない。追分の名主も気の毒だが、米や金を渡そうとした方にも無理がある。」
「そうです、わたしも大旦那《おおだんな》に賛成です。」と清助も言葉を添える。「いきなり貧民救助なぞに手をつけたのが、相良惣三の失敗のもとです。そういうことは、もっと大切に扱うべきで、なかなか通りすがりの嚮導隊《きょうどうたい》なぞにうまくやれるもんじゃありません。」
「とにかく。」と半蔵は答えた。「あの仲間は、東山道軍と行動を共にしませんでした。そこから偽官軍というような評判も立ったのですね。そこへつけ込む者も起こって来たんですね。でも、相良惣三らのこころざしはくんでやっていい。やはりその精神は先駆というところにあったと思います。ですから、地方の有志は進んで献金もしたわけです。そうはわたしも福
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