お民が吉左衛門のことを告げにそこへはいって来たころは、店座敷の障子も薄暗い。
「まあ、あなたは燈火《あかり》もつけないで、そんなところにすわってるんですか。」
 お民はあきれた。しょんぼりとはしているが、膝《ひざ》もくずさないような夫を彼女はその薄暗い部屋《へや》に見たのだ。
「お父《とっ》さんがどうした。」と半蔵の方からきいた。
「それがですよ。何か家の内にあるんじゃないかッて、しきりにお母《っか》さんにきくんだそうですよ。これにはお母さんも返事に困ったそうですよ。」
 とお民は言い捨てて、奥の方へ燈火を取りに行った。彼女は自分でさげて来た行燈《あんどん》に灯《ひ》を入れて、その部屋の内を明るくした。
「どうも心が騒いでしかたがない。」と半蔵は周囲を見回しながら言った。「さっきから、おれはひとりですわって見てるところさ。」
「妻籠《つまご》でもどうしていましょう。」とお民は兄の家の方のことを思い出したように。
「そりゃ、お前、寿平次さんのとこだって、おれの家と同じことさ。今ごろはきっと同じような話で持ちきっているだろうよ。」
「そうでしょうかねえ。」
「おれがお前に話してるようなことを、寿平次さんはお里さんに話してるにちがいないよ。そうさな、ずっと古いことはおれにもまあよくわからないが、吾家《うち》のお祖父《じい》さんにしても、お父《とっ》さんにしても、ほとんどこの街道や宿場のために一生を費やしたようなものさね。その長い骨折りがここのところへ来て、みんな水の泡《あわ》のように消えてしまうなんて、そんなものじゃないとおれは思うよ。すくなくも本陣問屋として、諸国の交通事業に参加して来たのも青山家代々のものだからね。福島の総管所から来る書付にもそのことは書いてある。これまで本陣問屋で庄屋を兼ねるくらいのところは、荒蕪《こうぶ》を切り開いた先祖からの歴史のある旧家に相違ないが、しかしこの際はそういう古い事に拘泥《こうでい》するなと教えてあるんだよ。あの笹屋《ささや》の庄助さんなぞはおれのところへやって来て、いくらでもお前さまは強く出さっせるがいいなんて、そんなことを言って行ったが、このおれたちが自分らをあと回しにしなかったら、どうして宿場の改革も望めないのさ。」
「まあ、わたしにはよくわかりません。なんですか、あんなにお母《っか》さんが心配していらっしゃるものですから、自
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