、馬籠《まごめ》からもそのために出て行った蓬莱屋《ほうらいや》新七などを江戸にとどめて置いて、各宿人馬|継立《つぎた》ての模様を調査する公役(道中奉行所の役人)が奥筋の方面から木曾路を巡回して来た。
 もはや秋雨が幾たびとなく通り過ぎるようになった。妻籠《つまご》の庄屋寿平次、年寄役得右衛門の二人《ふたり》は江戸からの公役に付き添いで馬籠までやって来た。ちょうど伊之助は木曾福島出張中であったので、半蔵と九郎兵衛とがこの一行を迎えて、やがて妻籠の寿平次らと一緒に美濃《みの》の方面にあたる隣宿|落合《おちあい》まで公役を見送った。
「半蔵さん。」
 と声をかけながら、寿平次は落合から馬籠への街道を一緒に踏んだ。前には得右衛門と九郎兵衛、後ろには供の佐吉が続いた。公役見送りの帰りとあって、妻籠と馬籠の宿役人はいずれも袴《はかま》に雪駄《せった》ばきの軽い姿になった。半蔵の脱いだ肩衣《かたぎぬ》は風呂敷包《ふろしきづつ》みにして佐吉の背中にあった。
「そう言えば、半蔵さんのお友だちは二人ともまだ京都ですか。」
「そうですよ。」
「よくあれで留守が続くと思う。」
「さあ、わたしもそれは心配してい
前へ 次へ
全434ページ中74ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
島崎 藤村 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング