よそやかましいと言っても、こんなやかましい御通行にぶつかったのは初めてです。」
 そう半蔵が言って見せると、伊之助は声を潜めて、
「半蔵さん、脇本陣《わきほんじん》の桝田屋《ますだや》へ来て休んで行った別当はなんと言ったと思います。御召馬とはなんだ。そういうことを言うんですよ。桝田屋の小左衛門さんもそれには震えてしまって、公方様《くぼうさま》の御召馬で悪ければ、そんならなんと申し上げればよいのですかと伺いを立てたそうです。その時の別当の言い草がいい――御召御馬《おめしおうま》と言え、それからこの御召御馬は焼酎《しょうちゅう》を一升飲むから、そう心得ろですとさ。」
 半蔵と伊之助とは互いに顔を見合わせた。
「半蔵さん、それだけで済むならまだいい。どうしてあの別当は機嫌《きげん》を悪くしていて、小左衛門さんの方で返事をぐずぐずしたら、いきなりその御召御馬を土足のまま桝田屋の床の間に引き揚げたそうですよ。えらい話じゃありませんか。実に、踏んだり蹴《け》ったりです。」
「京都の敵《かたき》をこの宿場へ来て打たれちゃ、たまりませんね。」と言って半蔵は嘆息した。


 京都から引き揚げる将軍家用の
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