事はできない、幸いここに革細工をするやつがいるからそれにさせろと言われるのと少しも変わったことはない、それに遠慮会釈も糸瓜《へちま》も要《い》るものか、さっさと打《ぶ》ちこわしてやれ、ただしおれたちは自分でその先棒になろうとは思わない――どうでしょう、君、これが相当に見識のある洋学者の言い草ですよ。どうしたって幕府は早晩倒さなけりゃならない、ただ、さしあたり倒す人間がないからしかたなしに見ているんだ、そういうことも言うんです。こんな無責任なことを言わせる今の洋学は考えて見たばかりでも心細い。自分さえよければ人はどうでもいい、百姓や町人はどうなってもいい、そんな学問のどこに熱烈|峻厳《しゅんげん》な革新の気魄《きはく》が求められましょうか――」
 後進の半蔵らを前に置いて、多感で正直なこの先輩は色のあせた着物の襟《えり》をかき合わせた。あだかも、つくづく身の落魄《らくはく》を感ずるというふうに。


「半蔵さん、ともかくもわたしと一緒に伴野までおいでください。君や香蔵さんをお誘いするようにッて、松尾の子息《むすこ》がくれぐれも言い置いて行きました。あの人は暮田正香と一緒に、けさ一歩《ひと
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