でずして天下を知るですか。どんな博識多才の名士だって、君、九年も戸を出なかったら、京都の事情にも暗くなりますね。あのとおり、上洛《じょうらく》して三月もたつかたたないうちに、ばっさり殺《や》られてしまいましたよ。いや、はや、京都は恐ろしいところです。わたしが知ってるだけでも、何度形勢が激変したかわかりません。」
「それにはこういう事情もあります。」と景蔵は正香の話を引き取って、「象山が斬られたのは、あれは池田屋事件の前あたりでしたろう。ねえ、香蔵さん、たしかそうでしたね。」
「そう、そう、みんな気が立ってる最中でしたよ。」
「あれは長州の大兵が京都を包囲する前で、叡山《えいざん》に御輿《みこし》を奉ずる計画なぞのあった時だと思います。そこへ象山が松代藩から六百石の格式でやって来て、山階宮《やましなのみや》に伺候したり慶喜公《よしのぶこう》に会ったりして、彦根《ひこね》への御動座を謀《はか》るといううわさが立ったものですからね。これは邪魔になると一派の志士からにらまれたものらしい。」
「まあ、あれほどの名士でしたら、もっと光を包んでいてもらいたかったと思いますね。」とまた正香が言った。「
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