旅籠屋《はたごや》を出た。時こそ元治《げんじ》元年の多事な年の暮れであったが、こんなに友だちと歩調を合わせて、日ごろ尊敬する諸大人のために何かの役に立ちに行くということは、そうたんと来そうな機会とも思われなかったからで。三人連れだって歩いて行く中にも、一番年上で、一番左右の肩の釣合《つりあ》いの取れているのは景蔵だ。香蔵と来たら、隆《たか》く持ち上げた左の肩に物を言わせ、歩きながらでもそれをすぼめたり、揺《ゆす》ったりする。この二人に比べると、息づかいも若く、骨太《ほねぶと》で、しかも幅の広い肩こそは半蔵のものだ。行き過ぎる町中には、男のさかりも好ましいものだと言いたげに、深い表格子の内からこちらをのぞいているような女の眸《ひとみ》に出あわないではなかったが、三人はそんなことを気にも留めなかった。その日の集まりが集まりだけに、半蔵らはめったに踏まないような厳粛な道を踏んだ。
新しい社《やしろ》を建てる。荷田春満《かだのあずままろ》、賀茂真淵《かものまぶち》、本居宣長、平田篤胤、この国学四大人の御霊代《みたましろ》を置く。伊那の谷を一望の中にあつめることのできる山吹村の条山《じょう
前へ
次へ
全434ページ中244ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
島崎 藤村 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング