幸兵衛と半蔵とはかなり庄屋気質《しょうやかたぎ》を異にしていた。不思議にも、旅は年齢の相違や立場を忘れさせる。半蔵は宿屋のかみさんが貸してくれた糊《のり》のこわい浴衣《ゆかた》の肌《はだ》ざわりにも旅の心を誘われながら、黙しがちにみんなの話に耳を傾けた。
「どうも、油断のならない世の中になりました。」と隠居は言葉をつづけて、「大店《おおだな》は大店で、仕入れも手控え、手控えのようです。おまけに昼は押し借り、夜は強盗の心配でございましょう。まあ、手前どもにはよくわかりませんが、お屋敷方の御隠居でも若様でも御簾中《ごれんちゅう》でも御帰国御勝手次第というような、そんな御改革はだれがしたなんて、慶喜公を恨んでいるものもございます。あの豚一様《ぶたいちさま》(豚肉を試食したという一橋公の異名)か、何も知らないものは諧謔《ふざけ》半分にそんなことを申しまして、とかく江戸では慶喜公の評判がよくございません……」
 江戸の話は尽きなかった。
 その晩、半蔵はおそくまでかかって、旅籠屋の行燈《あんどん》のかげで郷里の伏見屋伊之助あてに手紙を書いた。町々では夜燈なしに出歩くことを禁ぜられ、木戸木戸
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