しようとするなぞ実にけしからんと言う人はあっても、薩長が外国の力によって幕府を破ったのは、だれも不思議だと言うものもない。」
「そんな、君のような――わたしにくってかかってもしようがない。」
 これには寿平次も笑い出した。その時、半蔵は言葉を継いで、
「いくら防長の連中だって、この国の分裂を賭《と》してまでイギリスに頼ろうとは言いますまい。高杉晋作《たかすぎしんさく》なんて評判な人物が舞台に上って来たじゃありませんか。下手《へた》なことをすれば、外国に乗ぜられるぐらいは、知りぬいていましょう。」
「それもそうですね。まあ、長州の人たちの身になったら、こんな非常時に非常な手段を要するとでも言うんでしょうか。イギリスからの武器の供給は大事の前の小事ぐらいに考えるんでしょうか。わたしたちはお互いに庄屋ですからね。下から見上げればこそ、こんな議論が出るんですよ。」
「とにかく、寿平次さん――西洋ははいり込んで来ましたね。考うべき時勢ですね。」


 寿平次が宿方の用談を済ましてそこそこに妻籠の方へ帰って行った後、半蔵は会所から本陣の表玄関へ回って、広い板の間をあちこちと歩いて見た。当宿お昼休みで十三日間もかかった大通行の混雑が静まって見ると、総引き揚げに引き揚げて行った幕府方のあわただしさがその後に残った。
 そこへお民がちょっと顔を見せて、
「あなた、妻籠の兄さんと何を話していらしったんですか。子供は会所の方へのぞきに行って、あなたがたがけんかでもしてるのかと思って、目を円《まる》くして帰って来ましたよ。」
「なあに、そんな話じゃあるものか。きょうは寿平次さんにしてはめずらしい話が出た。あの人でもあんなに興奮することがあるかと思ったさ。」
「そんなに。」
「なあに、お前、けんかでもなんでもないさ。寿平次さんの話は、だれをとがめたのでもないのさ。あんまり世の中の変わり方が激しいもんだから、あの人はそれを疑っているのさ。」
「なんでも疑って見なけりゃ兄さんは承知しませんからね。」
「ごらんな、こう乱脈な時になって来ると、いろいろな人が飛び出すよ。世をはかなむ人もあるし、発狂する人もある。上州高崎在の風雅人で、木曾路の秋を見納めにして、この宿場まで来て首をくくった人もあるよ。」
「そんなことを言われると心細い。」
「まあ、賢明で迷っているよりかも、愚直でまっすぐに進むんだね。」
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