半蔵は連れと同じように旅の合羽《かっぱ》をぬいで、国から用意して来た麻の※[#「ころもへん+上」、第4水準2−88−9]※[#「ころもへん+下」、第4水準2−88−10]《かみしも》に着かえた。
「さあ、これから御奉行さまの前だ。」と贄川《にえがわ》の平助は用心深い目つきをしながら、半蔵の袖《そで》をひいた。「きょうは、うっかりした口はきけませんよ。半蔵さんはまだ若いから、何か言い出しそうで心配です。」
「わたしですか。わたしは平素《ふだん》から黙っていたい方ですから、そんなよけいなことはしゃべりませんよ。」
その時、福島の幸兵衛も庄屋らしい袴《はかま》の紐《ひも》を結んでいたが、半分|串談《じょうだん》のような調子で、
「半蔵さんは平田の御門人だと言うから、余分に目をつけられますぜ。」
と戯れた。
「いえ。」と半蔵は言った。「わたしは馬籠をたつ時に、家のものからもそんなことを言われて来ましたよ。でも、木曾十一宿の総代で呼び出されるものをつかまえて、まさか入牢《にゅうろう》を申し付けるとも言いますまい。」
幸兵衛も平助も笑った。三人ともしたくができた。そこで出かけた。
道中奉行|都筑駿河《つづきするが》の役宅は神田橋《かんだばし》外にある。そこには例の徒士目付《かちめつけ》が待ち受けていてくれて、やがて三人は二|部屋《へや》続いた広間に通された。旧暦六月のことで、襖《ふすま》障子《しょうじ》なぞも取りはずしてあった。正面に奉行、そのそばに道中|下方掛《したかたがか》りの役人らが控え、徒士目付はいろいろとその間を斡旋《あっせん》した。そこへ新たに道中奉行の一人《ひとり》となった神保佐渡《じんぼうさど》もはいって来て、席に着いた。
[#地から17字上げ]尾張殿領分
[#地から8字上げ]東山道贄川宿、外《ほか》十か宿総代
[#地から14字上げ]組合宿々取締役
[#地から13字上げ]右贄川宿庄屋
[#地から7字上げ]遠山平助
[#地から14字上げ]福島宿庄屋
[#地から7字上げ]堤幸兵衛
[#地から10字上げ]馬籠宿庄屋本陣問屋
[#地から7字上げ]青山半蔵
徒士目付は三人の庄屋を奉行に紹介するようにそれを読み上げる。平助も、幸兵衛も、それから半蔵も扇子を前に置き、各自の名前が読まれるたびに両手を軽く畳の上に置いて、順に挨拶《あいさつ》した。
都筑駿河はかつて勘
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