取り持ちをした。台所でもあり応接間でもある広い炉ばたには、手伝いとして集まって来ているお玉、お喜佐、おふきなどの笑い声も起こった。
仙十郎《せんじゅうろう》も改まった顔つきでやって来た。寛《くつろ》ぎの間《ま》と店座敷の間を往《い》ったり来たりして、半蔵を退屈させまいとしていたのもこの人だ。この取り込みの中で、金兵衛はちょっと半蔵を見に来て言った。
「半蔵さん、だれかお前さんの呼びたい人がありますかい。」
「お客にですか。宮川寛斎先生に中津川の香蔵さん、それに景蔵《けいぞう》さんも呼んであげたい。」
浅見《あさみ》景蔵は中津川本陣の相続者で、同じ町に住む香蔵を通して知るようになった半蔵の学友である。景蔵はもと漢学の畠《はたけ》の人であるが、半蔵らと同じように国学に志すようになったのも、寛斎の感化であった。
「それは半蔵さん、言うまでもなし。中津川の御連中はあすということにして、もう使いが出してありますよ。あの二人《ふたり》は黙って置いたって、向こうから祝いに来てくれる人たちでさ。」
そばにいた仙十郎は、この二人の話を引き取って、
「おれも――そうだなあ――もう一度祝言の仕直しでも
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