いよいよ参籠《さんろう》の朝も近いと思うと、半蔵はよく眠られなかった。夜の明け方には、勝重のそばで目をさました。山の端《は》に月のあるのを幸いに、水垢離《みずごり》を執って来て、からだを浄《きよ》め終わると、温《あたた》かくすがすがしい。着物も白、袴《はかま》も白の行衣《ぎょうい》に着かえただけでも、なんとなく彼は厳粛な心を起こした。
 まだあたりは薄暗い。早く山を発《た》つ二、三の人もある。遠い国からでも祈願をこめに来た参詣者《さんけいしゃ》かと見えて、月を踏んで帰途につこうとしている人たちらしい。旅の笠《かさ》、金剛杖《こんごうづえ》、白い着物に白い風呂敷包みが、その薄暗い空気の中で半蔵の目の前に動いた。
「どうも、お粗末さまでございました。」
 と言って見送る宿の人の声もする。
 その明け方、半蔵は朝勤めする禰宜《ねぎ》について、里宮のあるところまで数町ほどの山道を歩いた。社殿にはすでに数日もこもり暮らしたような二、三の参籠者が夜の明けるのを待っていて、禰宜の打つ大太鼓が付近の山林に響き渡るのをきいていた。その時、半蔵は払暁《ふつぎょう》の参拝だけを済まして置いて、参籠のしたくや
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