た講本の一つである。その中に、半蔵は異国について語る平田大人を見た。先師は天保十四年に没した故人のことで、もとより嘉永六年の夏に相州浦賀に着いたアメリカ船の騒ぎを知らず、まして十一隻からのイギリス艦隊が横浜に入港するまでの社会の動揺を知りようもない。しかし平田大人のような人の目に映るヨーロッパから、その見方、その考え方を教えられることは半蔵にとって実にうれしくめずらしかった。
 『静の岩屋』にいわく、
「さて又、近ごろ西の極《はて》なるオランダといふ国よりして、一種の学風おこりて、今の世に蘭学と称するもの、則《すなわ》ちそれでござる。元来その国柄と見えて、物の理《ことわり》を考へ究《きわ》むること甚《はなは》だ賢く、仍《よっ》ては発明の説も少なからず。天文地理の学は言ふに及ばず、器械の巧みなること人の目を驚かし、医薬|製煉《せいれん》の道|殊《こと》にくはしく、その書《ふみ》どももつぎつぎと渡り来《きた》りて世に弘《ひろ》まりそめたるは、即《すなわ》ち神の御心であらうでござる。然《しか》るに、その渡り来る薬品どもの中には効能の勝《すぐ》れたるもあり、又は製煉を尽して至つて猛烈なる類《た
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