頼む先師平田|大人《うし》の方へと誘った。もしあの先師が、この潮流の急な文久三年度に生きるとしたら、どう時代の暗礁《あんしょう》を乗り切って行かれるだろうかと思いやった。
 攘夷――戦争をもあえて辞しないようなあの殺気を帯びた声はどうだ。半蔵はこのひっそりとした深山幽谷の間へ来て、敬慕する故人の前にひとりの自分を持って行った時に、馬籠の街道であくせくと奔走する時にもまして、一層はっきりとその声を耳の底に聞いた。景蔵、香蔵の親しい友人を二人までも京都の方に見送った彼は、じっとしてはいられなかった。熱する頭をしずめ、逸《はや》る心を抑《おさ》えて、平田門人としての立場に思いを潜めねばならなかった。その時になると、同じ勤王に志すとは言っても、その中には二つの大きな潮流のあることが彼に見えて来た。水戸の志士藤田東湖らから流れて来たものと、本居平田諸大人に源を発するものと。この二つは元来同じものではない。名高い弘道館の碑文にもあるように、神州の道を敬い同時に儒者の教えをも崇《あが》めるのが水戸の傾向であって、国学者から見れば多分に漢意《からごころ》のまじったものである。その傾向を押し進め、国家無
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