って来てくださる日のあるだろうと思っていたよ。その日が来た。」

       三

 京都の方のことも心にかかりながら、半蔵は勝重《かつしげ》を連れて、王滝《おうたき》をさして出かけた。その日は須原《すはら》泊まりということにして、ちょうどその通り路《みち》にあたる隣宿|妻籠《つまご》本陣の寿平次が家へちょっと顔を出した。お民の兄であるからと言うばかりでなく、同じ街道筋の庄屋仲間として互いに心配を分けあうのも寿平次だ。
「半蔵さん、わたしも一緒にそこまで行こう。」
 と言いながら、寿平次は草履《ぞうり》をつッかけたまま半蔵らの歩いて行くあとを追って来た。
 旧暦四月はじめの旅するによい季節を迎えて、上り下りの諸|講中《こうじゅう》が通行も多い。伊勢《いせ》へ、金毘羅《こんぴら》へ、または善光寺へとこころざす参詣者《さんけいしゃ》の団体だ。奥筋へと入り込んで来る中津川の商人も見える。荷物をつけて行く馬の新しい腹掛け、赤革《あかがわ》の馬具から、首振るたびに動く麻の蠅《はえ》はらいまでが、なんとなくこの街道に活気を添える時だ。
 寿平次は半蔵らと一緒に歩きながら言った。
「御嶽《おんたけ
前へ 次へ
全473ページ中442ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
島崎 藤村 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング