ためであった。いかんせん、徳川幕府としては諸藩を統一してヨーロッパよりする勢力に対抗しうるだけの信用をも実力をも持たなかった。それでも京都方を安心させるため、宮様御降嫁の当時から外夷《がいい》の防禦《ぼうぎょ》を誓い、諸外国と取り結んだ条約を引き戻《もど》すか、無法な侵入者を征伐するか、いずれかを選んで叡慮《えいりょ》を安んずるであろうとの言質《げんち》が与えてある。この一時の気休めが京都方を満足させるはずもない。周囲の事情はもはやあいまいな態度を許さなかった。将軍の上洛に先だってその準備のために京都に滞在していた一橋慶喜《ひとつばしよしのぶ》ですら、三条実美《さんじょうさねとみ》、阿野公誠《あのきんみ》を正使とし、滋野井実在《しげのいさねあり》、正親町公董《おおぎまちきんただ》、姉小路公知《あねのこうじきんとも》を副使とする公卿たちから、将軍|入洛《じゅらく》以前にすでに攘夷期限を迫られていたほどの時である。今度の京都訪問を機会に、家茂《いえもち》の名によってこの容易ならぬ問題に確答を与えないかぎり、たとい帝御自身の年若な将軍に寄せらるる御同情があり、百方その間を周旋する慶喜の尽力が
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