の伏見屋の金兵衛は、半蔵の父と同じようにすでに隠居の身であるが、持って生まれた性分《しょうぶん》からじっとしていられなかった。きのうは因州の分家にあたる松平|隠岐守《おきのかみ》の女中方が通り、きょうは岩村の簾中方が子供衆まで連れての通行があると聞くと、そのたびに旧《ふる》い友だちを誘いに来た。
「吉左衛門さん、いくら御静養中だって、そう引っ込んでばかりいなくてもいいでしょう。まあすこし出てごらんなさい。おきれいと言っていいか、おみごとと言っていいか、わたしは拝見しているうちに涙がこぼれて来ますよ。」
毎日のような女中方の通行だ。半蔵や伊之助は見物どころではなかった。この帰国する人たちの通行にかぎり、木曾下四宿へ五百人の新助郷《しんすけごう》が許され、特にお定めより割のよい相対雇《あいたいやと》いの賃銭まで許され、百人ばかりの伊那の百姓は馬籠へも来て詰めていた。町人四分、武家六分と言われる江戸もあとに見捨てて来た屋敷方の人々は、住み慣れた町々の方の財界の混乱を顧みるいとまもないようであった。
「国もとへ、国もとへ。」
その声は――解放された諸大名の家族が揚げるその歓呼は――過去三世
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