な心持ちを起こさせた。大橋を渡り、橋場というところを過ぎて、下《くだ》り谷《だに》にかかった。歩けば歩くほど新生活のかどでにあるような、ある意識が彼の内部《なか》にさめて行った。
「寿平次さん、君の方へは何か最近に来た便《たよ》りがありますか――江戸からでも。」
「さあ、最近に驚かされたと言えば、生麦《なまむぎ》事件ぐらいのものです。」
「あの報知《しらせ》はわたしの方へも早く来ました。ほら、横須賀《よこすか》の旅に、あの辺は君と二人で歩いて通ったところなんですがね。」
 武州の生麦と言えば、勅使に随行した島津久光の一行、その帰国を急ぐ途中での八月二十一日あたりの出来事は江戸の方から知れて来ていた。あの英人の殺傷事件を想像しながら、木曾の尾垂《おたる》の沢深い山間《やまあい》を歩いて行くのは薄気味悪くもあるほど、まだそのうわさは半蔵らの記憶になまなましい。
「寿平次さん、わたしはそれよりも、あの薩摩《さつま》の同勢の急いで帰ったというのが気になりますよ。あれほどの事件が途中で起こったというのに、それをうっちゃらかして置いて行くくらいですからね。京都の方はどうでしょう。それほど雲行きが変
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