との憂いがあるから、後の子孫のために一巻の軸とすると書き添えた先祖の遺筆も出て来た。
「これはお前の方へ渡す。」
 父は半蔵の方で言おうとすることを聞き入れようともしなかった。親の譲るものは、子の受け取るべきもの。そうひとりできめて、いろいろな事務用の帳面や数十通の書付なぞをそこへ取り出した。村方の関係としては、当時の戸籍とも言うべき宗門|人別《にんべつ》から、検地、年貢、送籍、縁組、離縁、訴訟の手続きまでを記しつけたもの。
「これも大切な古帳だ。」
 と吉左衛門は言って、左の手でそれを半蔵の方へ押しやった。木曾山中の御免荷物として、木材通用の跡を記しつけたものだった。森林保護の目的から伐採を禁じられている五木の中でも、毎年二百|駄《だ》ずつの檜《ひのき》、椹《さわら》の類《たぐい》の馬籠村にも許されて来たことが、その中に明記してあった。
「なんだかおれも遠く来たような気がする。」と吉左衛門は言った。「おれの長い道づれはあの金兵衛さんだが、どうやらけんかもせずにここまで来た。まあ、何十年の間、おれはほとんどあの人と言い合ったことがない。ただ二度――そうさ、ただ二度あるナ。一度はお喜佐と
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