わさをしたり、十四代将軍(徳川|家茂《いえもち》)の御台所《みだいどころ》として降嫁せらるるという和宮様はどんな美しいかただろうなぞと語り合ったりしているところだった。
 いくらかでも街道の閑《ひま》な時を見て、手仕事を楽しもうとするこの女たちの世界は、寿平次の目にも楽しかった。織り手のお里は機に腰掛けている。お民はそのそばにいて同《おな》い年齢《どし》の嫂《あによめ》がすることを見ている。周囲には、小娘のお粂《くめ》も母親のお民に連れられて馬籠の方から来ていて、手鞠《てまり》の遊びなぞに余念もない。おばあさんはおばあさんで、すこしもじっとしていられないというふうで、あれもこしらえてお民に食わせたい、これも食わせたいと言いながら、何かにつけて孫が里帰りの日を楽しく送らせようとしている。
 その時、お民は兄の方を見て言った。
「兄さんは弓にばかり凝ってるッて、おばあさんがコボしていますよ。」
「おばあさんじゃないんだろう。お前たちがそんなことを言っているんだろう。おれもどうかしていると見えて、きょうの矢は一本も当たらない。そう言えば、半蔵さんは弓でも始めないかなあ。」
「吾夫《うち》じゃ
前へ 次へ
全473ページ中323ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
島崎 藤村 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング