衛門さんはそう言うけれど、わたしはもっとからだを鍛えることを思いつきましたよ。ごらんなさい、こう乱脈な世の中になって来ては、蛮勇をふるい起こす必要がありますね。」
 寿平次は胸を張り、両手を高くさし延べながら、的に向かって深く息を吸い入れた。左手《ゆんで》の弓を押す力と、右手《めて》の弦をひき絞る力とで、見る見る血潮は彼の頬《ほお》に上り、腕の筋肉までが隆起して震えた。背こそ低いが、彼ももはや三十歳のさかりだ。馬籠の半蔵と競い合って、木曾の「山猿《やまざる》」を発揮しようという年ごろだ。そのそばに立っていて、混ぜ返すような声をかけるのは、寿平次から見れば小父《おじ》さんのような得右衛門である。
「ポツン。」
「そうはいかない。」


 とりあえず寿平次らは願書の草稿を作りにかかった。第一、伊那方面は当分たりとも増助郷《ましすけごう》にして、この急場を救い、あわせて百姓の負担を軽くしたい。次ぎに、御伝馬宿々については今回の御下向《ごげこう》のため人馬の継立《つぎた》て方《かた》も嵩《かさ》むから、その手当てとして一宿へ金百両ずつを貸し渡されるよう。ただし十か年賦にして返納する。当時米穀も
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