めんください。」
 と子供に言って見せる声がして、部屋《へや》の敷居をまたごうとする幼いものを助けながら、そこへはいって来たのは半蔵の妻だ。娘のお粂《くめ》は五つになるが、下に宗太《そうた》という弟ができてから、にわかに姉さんらしい顔つきで、お民に連れられながら、客のところへ茶を運んで来た。一心に客の方をめがけて、茶をこぼすまいとしながら歩いて来るその様子も子供らしい。
「まあ、香蔵さん、見てやってください。」とおまんは言った。「お粂があなたのところへお茶を持ってまいりましたよ。」
「この子が自分で持って行くと言って、きかないんですもの。」とお民も笑った。
 半蔵の家では子供まで来て、雨に逗留する客をもてなした。
 とうとう香蔵は二晩も馬籠に泊まった。東|美濃《みの》から伊那《いな》の谷へかけての平田門人らとも互いに連絡を取ること、場合によっては京都、名古屋にある同志のものを応援することを半蔵に約して置いて、三日目には香蔵は馬籠の本陣を辞した。
 友だちが帰って行ったあとになって見ると、半蔵は一層わびしい雨の日を山の上に送った。四日目になっても雨は降り続き、風もすこし吹いて、橋の損所や
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