した。
 銭相場引き上げに続いて急激な諸物価騰貴をひき起こした横浜貿易の取りざたほど半蔵らの心をいらいらさせるものもない。当時、国内に流通する小判、一分判《いちぶばん》などの異常に良質なことは、米国領事ハリスですら幕府に注意したくらいで、それらの古い金貨を輸出するものは法外な利を得た。幕府で新小判を鋳造《ちゅうぞう》し、その品質を落としたのは、外国貨幣と釣合《つりあい》を取るための応急手段であったが、それがかえって財界混乱の結果を招いたとも言える。そういう幕府には市場に流通する一切の古い金貨を蒐集《しゅうしゅう》して、それを改鋳するだけの能力も信用もなかったからで。新旧小判は同時に市場に行なわれるような日がやって来た。目先の利に走る内地商人と、この機会をとらえずには置かない外国商人とがしきりにその間に跳梁《ちょうりょう》し始めた。純粋な小判はどしどし海の外へ出て行って、そのかわりに輸入せらるるものは多少の米弗《ベイドル》銀貨はあるとしても、多くは悪質な洋銀であると言われる。
「半蔵さん、君はあの小判買いの声をどう思います。」と香蔵は言った。「今までに君、九十万両ぐらいの小判は外国へ流れ
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