小判の相場は三両二朱ぐらいには商いのできること、そんな話を金兵衛のところに残して置いて、せっかく待ち受けている半蔵の家へは立ち寄らずに、そこそこに中津川の方へ通り過ぎて行った。
このことは後になって隣家から知れて来た。それを知った時の半蔵の手持ちぶさたもなかった。旧師を信ずる心の深いだけ、彼の失望も深かった。
二
「どうも小判買いの入り込んで来るには驚きますね。今もわたしは馬籠へ来る途中で、落合《おちあい》でもそのうわさを聞いて来ましたよ。」
こんな話をもって、中津川の香蔵が馬籠本陣を訪《たず》ねるために、落合から十曲峠《じっきょくとうげ》の山道を登って来た。
香蔵は、まだ家督相続もせずにいる半蔵と違い、すでに中津川の方の新しい問屋の主人である。十何年も前に弟子として、義理ある兄の寛斎に就《つ》いたころから見ると、彼も今は男のさかりだ。三人の友だちの中でも、景蔵は年長《としうえ》で、香蔵はそれに次ぎ、半蔵が一番若かった。その半蔵がもはや三十にもなる。
寛斎も今は成金《なりきん》だと戯れて見せるような友だちを前に置いて、半蔵は自分の居間としている本陣の店座敷で話
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