来た。
 馬荷一|駄《だ》。それに寛斎と宰領とが付き添って、牡丹屋の門口を離れた。安兵衛や嘉吉はせめて宿《しゅく》はずれまで見送りたいと言って、一緒に滝の橋を渡り、オランダ領事館の国旗の出ている長延寺の前を通って、神奈川御台場の先までついて来た。
 その時になって見ると、郷里の方にいる旧《ふる》い弟子《でし》たちの思惑《おもわく》もしきりに寛斎の心にかかって来た。彼が一歩《ひとあし》踏み出したところは、往来《ゆきき》するものの多い東海道だ。彼は老鶯《ろうおう》の世を忍ぶ風情《ふぜい》で、とぼとぼとした荷馬の※[#「くさかんむり/稾」、197−8]沓《わらぐつ》の音を聞きながら、遠く板橋回りで木曾街道に向かって行った。
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     第五章

       一

 宮川寛斎《みやがわかんさい》が万屋《よろずや》の主人と手代とを神奈川《かながわ》に残して置いて帰国の途に上ったことは、早く美濃《みの》の方へ知れた。中津川も狭い土地だから、それがすぐ弟子《でし》仲間の香蔵や景蔵の耳に入り、半蔵はまた三里ほど離れた木曾《きそ》の馬籠《まごめ》の方で、旧《ふる》い師匠が板橋方面から木曾街
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