ったんヨーロッパの方へ向かって開いた港からは、世界の潮《うしお》が遠慮会釈なくどんどん流れ込むように見えて来た。羅紗《らしゃ》、唐桟《とうざん》、金巾《かなきん》、玻璃《はり》、薬種、酒類なぞがそこからはいって来れば、生糸、漆器、製茶、水油、銅および銅器の類《たぐい》なぞがそこから出て行って、好《よ》かれ悪《あ》しかれ東と西の交換がすでにすでに始まったように見えて来た。
 郷里の方に待ち受けている妻子のことも、寛斎の胸に浮かんで来た。彼の心は中津川の香蔵、景蔵、それから馬籠《まごめ》の半蔵なぞの旧《ふる》い三人の弟子《でし》の方へも行った。あの血気|壮《さか》んな人たちが、このむずかしい時をどう乗ッ切るだろうかとも思いやった。


 生糸売り上げの利得のうち、小判《こばん》で二千四百両の金を遠く中津川まで送り届けることが寛斎の手に委《ゆだ》ねられた。安兵衛、嘉吉の二人は神奈川に居残って、六月のころまで商売を続ける手はずであったからで。当時、金銀の運搬にはいろいろ難渋した話がある。※[#「魚+昜」、195−9]《するめ》にくるんで乾物の荷と見せかけ、かろうじて胡麻《ごま》の蠅《はえ》の難
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