せは済んだ。これから糸の引き渡しだ。」
 異人屋敷を出てから安兵衛がホッとしたようにそれを言い出すと、嘉吉も連れだって歩きながら、
「旦那《だんな》、それから、まだありますぜ。請け取った現金を国の方へ運ぶという仕事がありますぜ。」
「その事なら心配しなくてもいい。先生が引き受けていてくださる。」
「こいつがまた一仕事ですぞ。」
 寛斎は二人のあとから神奈川台の土を踏んで、一緒に海の見えるところへ行って立った。目に入るかぎり、ちょうど港は発展の最中だ。野毛《のげ》町、戸部《とべ》町なぞの埋め立てもでき、開港当時百一戸ばかりの横浜にどれほどの移住者が増したと言って見ることもできない。この横浜は来たる六月二日を期して、開港一周年を迎えようとしている。その記念には、弁天の祭礼をすら迎えようとしている。牡丹屋の亭主の話によると、神輿《みこし》はもとより、山車《だし》、手古舞《てこまい》、蜘蛛《くも》の拍子舞《ひょうしまい》などいう手踊りの舞台まで張り出して、できるだけ盛んにその祭礼を迎えようとしている。だれがこの横浜開港をどう非難しようと、まるでそんなことは頓着《とんちゃく》しないかのように、い
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