いと思う郷里の方の人たちの消息――彼の妻子の消息、彼の知人の消息、彼の旧《ふる》い弟子《でし》たちの消息ばかりでなく、何かこう一口には言ってしまえないが、あの東美濃の盆地の方の空気までもなんとなく一緒に寛斎のところへ持って来た。
 寛斎がたったりすわったりしているそばで、嘉吉は働き盛りの手代らしい調子で、
「宮川先生も、ずいぶんお待ちになったでしょう。なにしろ春蚕《はるご》の済まないうちは、どうすることもできませんでした。糸はでそろいませんし。」
 と言うと、安兵衛も寛斎をねぎらい顔に、
「いや、よく御辛抱《ごしんぼう》が続きましたよ。こんなに長くなるんでしたら、一度国の方へお帰りを願って、また出て来ていただいてもとは思いましたがね。」
 百里の道を往復して生糸商売でもしようという安兵衛には、さすがに思いやりがある。
「どうしても、だれか一人《ひとり》こっちにいないことには、浜の事情もよくわかりませんし、人任せでは安心もなりませんし――やっぱり先生に残っていていただいてよかったと思いました。」
 とも安兵衛は言い添えた。
 やがて灯《ひ》ともしごろであった。三人は久しぶりで一緒に食事を
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