、一通の書付《かきつけ》もそこへ取り出して見せた。
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「其方《そのほう》儀、御勝手《おかって》御仕法立てにつき、頼母子講《たのもしこう》御世話|方《かた》格別に存じ入り、小前《こまえ》の諭《さと》し方も行き届き、その上、自身にも別段御奉公申し上げ、奇特の事に候《そうろう》。よって、一代|苗字《みょうじ》帯刀《たいとう》御免なし下され候。その心得あるべきものなり。」
嘉永《かえい》六年|丑《うし》六月
[#地から2字上げ]三《みつ》逸作《いつさく》
[#地から2字上げ]石《いし》団之丞《だんのじょう》
[#地から2字上げ]荻《おぎ》丈左衛門《じょうざえもん》
[#地から2字上げ]白《しろ》新五左衛門《しんござえもん》
青山吉左衛門殿
[#ここで字下げ終わり]
「ホ。苗字帯刀御免とありますね。」
「まあ、そんなことが書いてある。」
「吉左衛門さん一代限りともありますね。なんにしても、これは名誉だ。」
と金兵衛が言うと、吉左衛門はすこし苦《にが》い顔をして、
「これが、せめて十年前だとねえ。」
ともかくも吉左衛門は役目を果たしたが、同時に勘定所の役人
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