心した、と言うのは寿平次であった。思いがけない屋敷町の方で読書の声を聞いて来た、と言うのは半蔵であった。
その晩、半蔵は寿平次と二人|枕《まくら》を並べて床についたが、夜番の拍子木《ひょうしぎ》の音なぞが耳について、よく眠らなかった。枕もとにあるしょんぼりとした行燈《あんどん》のかげで、敷いて寝た道中用の脇差《わきざし》を探って見て、また安心して蒲団《ふとん》をかぶりながら、平田家を訪《たず》ねた日のことなぞを考えた。あの鉄胤《かねたね》から古学の興隆に励めと言われて来たことを考えた。世は濁り、江戸は行き詰まり、一切のものが実に雑然紛然として互いに叫びをあげている中で、どうして国学者の夢などをこの地上に実現し得られようと考えた。
「自分のような愚かなものが、どうして生きよう。」
そこまで考えつづけた。
翌朝は、なるべく早く出立しようということになった。時が来て、半蔵は例の青い合羽《かっぱ》、寿平次は柿色《かきいろ》の合羽に身をつつんで、すっかりしたくができた。佐吉はすでに草鞋《わらじ》の紐《ひも》を結んだ。三人とも出かけられるばかりになった。
十一屋の隠居はそこへ飛んで出て来て
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