に立つべったら市のにぎわいも見られたとかみさんはいう。芝居《しばい》は、と尋ねると、市村《いちむら》、中村、森田三座とも狂言|名題《なだい》の看板が出たばかりのころで、茶屋のかざり物、燈籠《とうろう》、提灯《ちょうちん》、つみ物なぞは、あるいは見られても、狂言の見物には月のかわるまで待てという。当時売り出しの作者の新作で、世話に砕けた小団次《こだんじ》の出し物が見られようかともいう。
「朔日《ついたち》の顔見世《かおみせ》は明けの七つ時《どき》でございますよ。太夫《たゆう》の三番叟《さんばそう》でも御覧になるんでしたら、暗いうちからお起きにならないと、間に合いません。」
「江戸の芝居見物も一日がかりですね。」
 こんな話の出るのも、旅らしかった。
 夕飯後、半蔵はかねて郷里を出る時に用意して来た一通の書面を旅の荷物の中から取り出した。
「どれ、一つ寿平次さんに見せますか。これがあす持って行く誓詞《せいし》です。」
 と言って寿平次の前に置いた。
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    誓詞
「このたび、御門入り願い奉《たてまつ》り候《そうろう》ところ、御許容なし下され、御門人の列に召し加えられ
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