場を堅めるかというんでしょう。火の用心のお触れは出る。鉄砲や具足の値は平常《ふだん》の倍になる。海岸の方に住んでいるものは、みんな荷物を背負《しょ》って逃げましたからね。わたしもこんな宿屋商売をして見ていますが、世の中はあれから変わりましたよ。」
 半蔵も、寿平次も、この隠居の出て行ったあとで、ともかくも江戸の空気の濃い町中に互いの旅の身を置き得たことを感じた。木曾の山の中にいて想像したと、出て来て見たとでは、実にたいした相違であることをも感じた。
「半蔵さん、きょうは国へ手紙でも書こう。」
「わたしも一つ、馬籠《まごめ》へ出すか。」


「半蔵さん、君はそれじゃ佐吉を連れて、あす平田先生を訪《たず》ねるとしたまえ。」
 とりあえずそんな相談をして、その日一日は二人とも休息することにした。旅に限りがあって、そう長い江戸の逗留《とうりゅう》は予定の日取りが許さなかった。まだこれから先に日光《にっこう》行き、横須賀《よこすか》行きも二人を待っていた。
 寿平次は手を鳴らして宿のかみさんを呼んだ。もうすこし早く三人が出て来ると、夷講《えびすこう》に間に合って、大伝馬町《おおてんまちょう》の方
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