寿平次も草鞋《わらじ》の紐《ひも》を解いた。そこへ荷を卸した佐吉のそばで、二人《ふたり》とも長い道中のあとの棒のようになった足を洗った。
「ようやく、ようやく。」
 二階の部屋《へや》へ案内されたあとで、半蔵は寿平次と顔を見合わせて言ったが、まだ二人とも脚絆《きゃはん》をつけたままだった。
「ここまで来ると、さすがに陽気は違いますなあ。宿屋の女中なぞはまだ袷《あわせ》を着ていますね。」
 と寿平次も言って、その足で部屋のなかを歩き回った。


 半蔵が江戸へ出たころは、木曾の青年でこの都会に学んでいるという人のうわさも聞かなかった。ただ一人《ひとり》、木曾福島の武居拙蔵《たけいせつぞう》、その人は漢学者としての古賀※[#「にんべん+同」、第3水準1−14−23]庵《こがどうあん》に就《つ》き、塩谷宕陰《しおのやとういん》、松崎慊堂《まつざきこうどう》にも知られ、安井息軒《やすいそっけん》とも交わりがあって、しばらく御茶《おちゃ》の水《みず》の昌平黌《しょうへいこう》に学んだが、親は老い家は貧しくて、数年前に郷里の方へ帰って行ったといううわさだけが残っていた。
 半蔵もまだ若かった。青年
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