ろへ出た。そこが福島の城下町であった。
「いよいよ御関所ですかい。」
佐吉は改まった顔つきで、主人らの後ろから声をかけた。
福島の関所は木曾街道中の関門と言われて、大手橋の向こうに正門を構えた山村氏の代官屋敷からは、河《かわ》一つ隔てた町はずれのところにある。「出女《でおんな》、入《い》り鉄砲《でっぽう》」と言った昔は、西よりする鉄砲の輸入と、東よりする女の通行をそこで取り締まった。ことに女の旅は厳重をきわめたもので、髪の長いものはもとより、そうでないものも尼《あま》、比丘尼《びくに》、髪切《かみきり》、少女《おとめ》などと通行者の風俗を区別し、乳まで探って真偽を確かめたほどの時代だ。これは江戸を中心とする参覲《さんきん》交代の制度を語り、一面にはまた婦人の位置のいかなるものであるかを語っていた。通り手形を所持する普通の旅行者にとって、なんのはばかるところはない。それでもいよいよ関所にかかるとなると、その手前から笠《かさ》や頭巾《ずきん》を脱ぎ、思わず襟《えり》を正したものであるという。
福島では、半蔵らは関所に近く住む植松菖助《うえまつしょうすけ》の家を訪《たず》ねた。父吉左衛
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