夜明け前
第一部上
島崎藤村

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)木曾路《きそじ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)木曾十一|宿《しゅく》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「木+鑞のつくり」、10−17]
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     序の章

       一

 木曾路《きそじ》はすべて山の中である。あるところは岨《そば》づたいに行く崖《がけ》の道であり、あるところは数十間の深さに臨む木曾川の岸であり、あるところは山の尾をめぐる谷の入り口である。一筋の街道《かいどう》はこの深い森林地帯を貫いていた。
 東ざかいの桜沢から、西の十曲峠《じっきょくとうげ》まで、木曾十一|宿《しゅく》はこの街道に添うて、二十二里余にわたる長い谿谷《けいこく》の間に散在していた。道路の位置も幾たびか改まったもので、古道はいつのまにか深い山間《やまあい》に埋《うず》もれた。名高い桟《かけはし》も、蔦《つた》のかずらを頼みにしたような危《あぶな》い場処ではなくな
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