あのおかめの面の奥を覗いて見たこともないやうな人達がある。さういふ人達が寄つてたかつて、太神楽の道化役にも使ひ、酉の市の熊手のかざりにまで引張り出す。折角をかしみのある女の風情も、長い間に磨り減らされ、踏みにじられてしまつた。おかめの「笑」と言へば、今はたゞ浅い滑稽の表象でしかない。人はいかなるものをも弄ぶやうになるものだ。すくなくもこの世に幸福を持ち来しさうなあの福々しい女のほゝゑみも、あれはその実、笑つてゐるのか泣いてゐるのか分らないやうな気がする。



底本:「日本の名随筆40 顔」作品社
   1986(昭和61)年2月25日第1刷発行
   1989(平成元)年10月31日第7刷発行
底本の親本:「島崎藤村全集 第十二巻」筑摩書房
   1982(昭和57)年4月
入力:渡邉 つよし
校正:門田裕志
2002年12月4日作成
青空文庫作成ファイル:
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