と、三郎と、末ちゃんに父《とう》さんの分ける金です。お前の家でも手の足りないことは、父さんもよく承知しています。父さんはほかに手伝いのしようもないから、お前の耕作を助ける代わりとしてこれを送ります。この金を預けたら毎年三百円ほどの余裕ができましょう。それでお前の農家の経済を補って行くことにしてください。
これはただ金《かね》で父さんからもらったと考えずに、父さんがお前と一緒に働いているしるしと考えてください。くれぐれもこの金をお前の農家に送る父さんの心を忘れないでください。
くわしいことは、いずれ次郎が帰村の日に。
[#天から3字下げ]太郎へ
ちょうど、そこへ三郎が郊外のほうの話をもって訪《たず》ねて来た。
「おう、三ちゃんもちょうどいいとこへ来た。お前にも見せるものがある。」
と、私は言って、この子のためにも同じように用意して置いた証書を取り出して見せたあとで、
「お前も一度は世界を見て来るがいいよ。」
と言い添えた。
「そうしてもらえば、僕もうれしい。」
それが三郎の返事であった。
何か私は三人の男の子に餞別《せんべつ》でも出したような気がして、自分のしたことを笑い
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