の時になって次郎にもわかって来た。私は京橋《きょうばし》へんまで車を引き返させて、そこの町にある銀行の支店で、次郎と三郎との二人《ふたり》のために五千円ずつの金を預けた。兄は兄、弟は弟の名前で。
 私は次郎に言った。
「これはいつでも引き出せるというわけには行かない。半年に一度しかそういう時期は回って来ない。」
「そこはとうさんに任せるよ。」
 私は時計を見た。どこの銀行でも店を閉じるという午後の三時までには、まだ時の余裕があった。私はその日のうちに四人の兄妹《きょうだい》に分けるだけのものは分け、受け取った金の始末をしてしまいたいと思った。そこは人通りの多い町中で、買い物にも都合がいい。末子は家へのみやげにと言って、町で求めた菓子パンなどを風呂敷包《ふろしきづつ》みにしながら、自動車の中に私たちを待っていた。
「末ちゃん、今度はお前の番だよ。」
 そう言って、私は家路に近い町のほうへとまた車をいそがせた。

 かなりくたぶれて私は家に帰り着いた。ほとんど一日がかりでその日の用達《ようたし》に奔走し、受け取った金の始末もつけ、ようやく自分の部屋《へや》にくつろいで見ると、肩の荷物をおろ
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