芭蕉
島崎藤村

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)納《い》れて

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#濁点付き片仮名ヱ、1−7−84]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)かず/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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 佛蘭西の旅に行く時、私は鞄の中に芭蕉全集を納《い》れて持つて行つた。異郷の客舍にある間もよく取出して讀んで見た。『冬の日』、『春の日』から、『曠野』、『猿簑』を經て『炭俵』にまで到達した芭蕉の詩の境地を想像するのも樂しいことに思つた。
 昔の人の書いたもので、それを讀んだ時はひどく感心したやうなものでも、歳月を經る間には自然と忘れてしまふものが多い。その中で、折にふれては思出し、何時《いつ》[#「何時《いつ》」は底本では「何《い》時」]取出して讀んで見ても飽きないのは芭蕉の書いたものだ。
『朝を思ひ、また夕を思ふべし。』
 含蓄の多い芭蕉の詩や散文が折にふれては自分の胸に浮んで來るのは、
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