ひとは》の黄もとゞめない。丁度其|霜葉《しもば》の舞ひ落ちる光景《ありさま》を眺め乍ら、廊下の古壁に倚凭《よりかゝ》つて立つて居るのは、お志保であつた。丑松は敬之進のことを思出して、つく/″\彼《あ》の落魄《らくはく》の生涯《しやうがい》を憐むと同時に、亦《ま》た斯《こ》の人を注意して見るといふ気にも成つたのである。
『お志保さん。』と丑松は声を掛けた。『奥様に左様《さう》言つて呉れませんか――今日は宿直の当番ですから何卒《どうか》晩の弁当をこしらへて下さるやうに――後で学校の小使を取りによこしますからツて――ネ。』
と言はれて、お志保は壁を離れた。娘の時代には克《よ》くある一種の恐怖心から、何となく丑松を憚《はゞか》つて居るやうにも見える。何処か敬之進に似たところでもあるか、斯《か》う丑松は考へて、其となく俤《おもかげ》を捜《さが》して見ると、若々しい髪のかたち、額つき――まあ、どちらかと言へば、彼《あ》の省吾は父親似、斯《こ》の人はまた亡《な》くなつたといふ母親の方にでも似たのであらう。『眼付なぞはもう彷彿《そつくり》さ』と敬之進も言つた。
『あの、』とお志保はすこし顔を紅《あか
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