すけれど。』
『あんまり馬鹿々々しいことで、貴方なぞに御話するのも面目ない。』と奥様は深い溜息を吐《つ》き乍ら言つた。『噫《あゝ》、吾寺《うち》の和尚さんも彼年齢《あのとし》に成つて、未《ま》だ今度のやうなことが有るといふは、全く病気なんですよ。病気ででも無くて、奈何して其様な心地《こゝろもち》に成るもんですか。まあ、瀬川さん、左様ぢや有ませんか。和尚さんもね、彼病気さへ無ければ、実に気分の優しい、好い人物《ひと》なんです――申分の無い人物なんです――いえ、私は今だつても和尚さんを信じて居るんですよ。』

       (七)

『奈何《どう》して私は斯《か》う物に感じ易いんでせう。』と奥様は啜《すゝ》り上げた。『今度のやうなことが有ると、もう私は何《なんに》も手に着きません。一体、和尚さんの病気といふのは、今更始つたことでも無いんです。先住は早く亡《な》くなりまして、和尚さんが其後へ直つたのは、未《ま》だ漸《やうや》く十七の年だつたといふことでした。丁度私が斯寺《このてら》へ嫁《かたづ》いて来た翌々年《よく/\とし》、和尚さんは西京へ修業に行くことに成ましてね――まあ、若い時には能《
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