いたものが有るとのこと。
『あの、勝野先生も来て居なさりやすよ。』
と省吾は添付《つけた》して言つた。
『左様《さう》? 勝野君も?』と丑松は徴笑み乍ら答へた。遽然《にはかに》、心の底から閃めいたやうに、憎悪《にくしみ》の表情が丑松の顔に上つた。尤《もつと》も直に其は消えて隠れて了つたのである。
『さあ――私《わし》と一緒に早く来なされ。』
『今直に後から行きますよ。』
とは言つたものゝ、実は丑松は行きたくないのであつた。『早く』を言ひ捨てゝ、ぷいと省吾は出て行つて了つた。
楽しさうな笑声が、復《ま》た、起つた。蔵裏の下座敷――それはもう目に見ないでも、斯《か》うして声を聞いたばかりで、人々の光景《ありさま》が手に取るやうに解る。何もかも丑松は想像することが出来た。定めし、奥様は何か心に苦にすることがあつて、其を忘れる為にわざ/\面白|可笑《をか》しく取做《とりな》して、それで彼様《あん》な男のやうな声を出して笑ふのであらう。定めし、お志保は部屋を出たり入つたりして、茶の道具を持つて来たり、其を入れて人々に薦《すゝ》めたり、又は奥様の側に倚添《よりそ》ひ乍ら談話《はなし》を聞いて
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