しますまいが――といふのは、教育者が金牌なぞを貰つて鬼の首でも取つたやうに思ふのは大間違だと。そりやあ成程《なるほど》人爵の一つでせう。瀬川君なぞに言はせたら価値《ねうち》の無いものでせう。然し金牌は表章《しるし》です。表章が何も難有《ありがた》くは無い。唯其意味に価値《ねうち》がある。はゝゝゝゝ、まあ左様《さう》ぢや有ますまいか。』
『どうしてまた瀬川君は其様《そん》な思想《かんがへ》を持つのだらう。』と郡視学は嘆息した。
『時代から言へば、あるひは吾儕《われ/\》の方が多少|後《おく》れて居るかも知れません。しかし新しいものが必ずしも好いとは限りませんからねえ。』と言つて校長は嘲《あざけ》つたやうに笑つて、『なにしろ、瀬川君や土屋君が彼様《あゝ》して居たんぢや、万事私も遣りにくゝて困る。同志の者ばかり集つて、一致して教育事業をやるんででもなけりやあ、到底面白くはいきませんさ。勝野君が首座ででもあつて呉れると、私も大きに安心なんですけれど。』
『そんなに君が面白くないものなら、何とか其処には方法も有さうなものですがなあ。』と郡視学は意味ありげに相手の顔を眺めた。
『方法とは?』と校長
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