かのやう。丑松も紅《あか》くなつて、顔を伝ふ汗の熱さに暫時《しばらく》世の煩《わづら》ひを忘れた。
『先生、一つ流しませう。』と丑松は小桶《こをけ》を擁《かゝ》へて蓮太郎の背後《うしろ》へ廻る。
『え、流して下さる?』と蓮太郎は嬉しさうに、『ぢやあ、願ひませうか。まあ君、ざつと遣つて呉れたまへ。』
 斯うして丑松は、日頃慕つて居る其人に近いて、奈何《どう》いふ風に考へ、奈何いふ風に言ひ、奈何いふ風に行ふかと、すこしでも蓮太郎の平生を見るのが楽しいといふ様子であつた。急に二人は親密《したしみ》を増したやうな心地《こゝろもち》もしたのである。
『さあ、今度は僕の番だ。』
 と蓮太郎は湯を汲出《かいだ》して言つた。幾度か丑松は辞退して見た。
『いえ、私は沢山です。昨日入つたばかりですから。』と復《ま》た辞退した。
『昨日は昨日、今日は今日さ。』と蓮太郎は笑つて、『まあ、左様《さう》遠慮しないで、僕にも一つ流させて呉れたまへ。』
『恐れ入りましたなあ。』
『どうです、瀬川君、僕の三助もなか/\巧いものでせう――はゝゝゝゝ。』と戯れて、やがて蓮太郎はそこに在る石鹸《シャボン》を溶いて丑松の背中へ
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