も実は今日限りであるといふことを話し、自分は今|別離《わかれ》を告げる為に是処《こゝ》に立つて居るといふことを話した。
『皆さんも御存じでせう。』と丑松は噛んで含めるやうに言つた。『是《この》山国に住む人々を分けて見ると、大凡《おおよそ》五通りに別れて居ます。それは旧士族と、町の商人と、お百姓と、僧侶《ばうさん》と、それからまだ外に穢多といふ階級があります。御存じでせう、其穢多は今でも町はづれに一団《ひとかたまり》に成つて居て、皆さんの履《は》く麻裏《あさうら》を造《つく》つたり、靴や太鼓や三味線等を製《こしら》へたり、あるものは又お百姓して生活《くらし》を立てゝ居るといふことを。御存じでせう、其穢多は御出入と言つて、稲を一束づゝ持つて、皆さんの父親《おとつ》さんや祖父《おぢい》さんのところへ一年に一度は必ず御機嫌伺ひに行きましたことを。御存じでせう、其穢多が皆さんの御家へ行きますと、土間のところへ手を突いて、特別の茶椀で食物《くひもの》なぞを頂戴して、決して敷居から内部《なか》へは一歩《ひとあし》も入られなかつたことを。皆さんの方から又、用事でもあつて穢多の部落へ御出《おいで》になりますと、煙草《たばこ》は燐寸《マッチ》で喫《の》んで頂いて、御茶は有《あり》ましても決して差上げないのが昔からの習慣です。まあ、穢多といふものは、其程|卑賤《いや》しい階級としてあるのです。もし其穢多が斯《こ》の教室へやつて来て、皆さんに国語や地理を教へるとしましたら、其時皆さんは奈何思ひますか、皆さんの父親《おとつ》さんや母親《おつか》さんは奈何《どう》思ひませうか――実は、私は其|卑賤《いや》しい穢多の一人です。』
 手も足も烈しく慄《ふる》へて来た。丑松は立つて居られないといふ風で、そこに在る机に身を支へた。さあ、生徒は驚いたの驚かないのぢやない。いづれも顔を揚げたり、口を開いたりして、熱心な眸《ひとみ》を注いだのである。
『皆さんも最早《もう》十五六――万更《まんざら》世情《ものごゝろ》を知らないといふ年齢《とし》でも有ません。何卒《どうぞ》私の言ふことを克《よ》く記憶《おぼ》えて置いて下さい。』と丑松は名残惜《なごりを》しさうに言葉を継《つ》いだ。
『これから将来《さき》、五年十年と経つて、稀《たま》に皆さんが小学校時代のことを考へて御覧なさる時に――あゝ、あの高等四年の教室
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