といふことは、いかに言つても情ない。あゝ放逐――何といふ一生の恥辱《はづかしさ》であらう。もしも左様なつたら、奈何《どう》して是《これ》から将来《さき》生計《くらし》が立つ。何を食つて、何を飲まう。自分はまだ青年だ。望もある、願ひもある、野心もある。あゝ、あゝ、捨てられたくない、非人あつかひにはされたくない、何時迄も世間の人と同じやうにして生きたい――斯う考へて、同族の受けた種々《さま/″\》の悲しい恥、世にある不道理な習慣、『番太』といふ乞食の階級よりも一層《もつと》劣等な人種のやうに卑《いやし》められた今日迄《こんにちまで》の穢多の歴史を繰返した。丑松はまた見たり聞いたりした事実を数へて、あるひは追はれたりあるひは自分で隠れたりした人々、父や、叔父や、先輩や、それから彼の下高井の大尽の心地《こゝろもち》を身に引比べ、終《しまひ》には娼婦《あそびめ》として秘密に売買されるといふ多くの美しい穢多の娘の運命なぞを思ひやつた。
其時に成つて、丑松は後悔した。何故、自分は学問して、正しいこと自由なことを慕ふやうな、其様《そん》な思想《かんがへ》を持つたのだらう。同じ人間だといふことを知らなかつたなら、甘んじて世の軽蔑を受けても居られたらうものを。何故《なぜ》、自分は人らしいものに斯世の中へ生れて来たのだらう。野山を駆け歩く獣の仲間ででもあつたなら、一生何の苦痛《くるしみ》も知らずに過されたらうものを。
歓《うれ》し哀《かな》しい過去の追憶《おもひで》は丑松の胸の中に浮んで来た。この飯山へ赴任して以来《このかた》のことが浮んで来た。師範校時代のことが浮んで来た。故郷《ふるさと》に居た頃のことが浮んで来た。それはもう悉皆《すつかり》忘れて居て、何年も思出した先蹤《ためし》の無いやうなことまで、つい昨日の出来事のやうに、青々と浮んで来た。今は丑松も自分で自分を憐まずには居られなかつたのである。軈《やが》て、斯ういふ過去の追憶《おもひで》がごちや/\胸の中で一緒に成つて、煙のやうに乱れて消えて了《しま》ふと、唯二つしか是から将来《さき》に執るべき道は無いといふ思想《かんがへ》に落ちて行つた。唯二つ――放逐か、死か。到底丑松は放逐されて生きて居る気は無かつた。其よりは寧《むし》ろ後者《あと》の方を択《えら》んだのである。
短い冬の日は何時の間にか暮れかゝつて来た。もう二度と現
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